「今日、何時に戻るんだ?」

 ラーメンも食べ終わり、ゆっくりしていた時、幹太が訊ねてきた。俺は無言で眉を顰める。幹太はそんな俺を見て、ニヤニヤする。

「なんだよ、帰りたくなさそうだな」
「ああ…」

 「え。まじで?」幹太は目を丸くする。そしてわたわたと慌てながら、じゃあ、と話を切り出す。

「俺ん家来るか? 泊まれよ」

 頷きそうになった。しかし、俺は外出届しか出してない。このままでは無断外泊となってしまう。普通の全寮制の学校だったらそこまで騒ぎにはならないが、俺の行っているところは金持ちの坊ちゃんばかり通っているから、大騒ぎになりかねない。

「外泊は無理だ」
「あ? 何でだよ。ババアなら気にしなくていいぜ?」

 一瞬で不機嫌になった幹太に、理由を話す。幹太は何かを考えているのか、一点を見つめる。そして、にやりと笑うと携帯を出した。

「外泊自体は問題ねーんだろ? じゃあ許可してもらえばいい話じゃねえか」
「は…? おい、何言って」

 俺の言葉を無視して携帯を耳に当てる。まさかと思って目を見開いた。

「よっ。今、淳也といるんだけどよ、こいつ俺ん家に泊まらせるから、手続き頼んだ。じゃあな」

 向こうで何かを叫んでいたが、幹太はそれを無視して電話を切る。そして達成感に満ちた顔で携帯を仕舞う。

「これでいいだろ?」
「これでいいだろ…って」

 まあ、いいんだろうが。日向でないことは間違いないから、電話の相手は空音だろう。生徒会役員なら本人じゃなくとも手続きできそうだ。しかし、一方的すぎるだろ。呆れて溜息を吐くと、音楽が鳴り出す。幹太の携帯だ。

「ッチ、うっせーな」

 鬱陶しそうに言って携帯を取り出すと、ブチ、と切った。そして携帯を再び仕舞う。おい、出てやれよ。絶対空音からの電話だろ今の。口を開こうとした時、俺の携帯が震えだした。名前を見ずとも分かる。空音だ。幹太は俺を一瞥しただけで、何も言わなかった。