「翔太」

 直人は翔太が告白するとは思ってもみなかったようだ。少し動揺した様子で翔太を見つめる。翔太は眉を下げて笑った。返事は要らない、など言わない。直人に振ってもらわなければ、この想いを終わらせられないのだ。
 躊躇している直人に促した。「言ってください」

「……俺は、お前の気持ちには応えられない」
「はい」

 断ったのは直人だというのに、悲痛な面持ちで自分の手元を見た。翔太はそれに比べて、清々しい気持ちでいた。これで、淳也を素直に応援できるからだ。
 直人は、翔太を弄ぶ――というのは少し語弊があるが、利用していたのは事実だ。翔太の気持ちを知っていながら、別の人物を気にかけていたことも含め、直人は罪悪感を抱いていた。
 翔太は、しかし、と宙を見る。問題は日向である。翔太は、日向に好かれていない自覚がある。それでも、日向のことは嫌いではない。淳也も、直人も、日向も。皆幸せになる方法はないのかと考えるが、それは難しいだろうなと、翔太は溜息を吐いた。

「会長、淳也に伝えないんですか?」
「一応色々言ったりやったりしてんだけどな」
「あー…。会長のやることは嫌がらせっぽいんですよね…」

 翔太の言葉に、直人は苦虫を噛み潰したような顔をする。直人は好きな子を虐めるタイプの男だった。直人にも問題があるが、淳也が自分に好意を抱いているわけがないと決めつけてしまっているのも問題だ。淳也が直人の好意に気付けば。直人が素直になれば。二人はすぐにくっつくだろう――と思って、翔太は苦笑いを浮かべる。くっつくのだろうか。翔太は二人の仲良しこよしな姿を想像できなかった。日向と淳也ならば、容易に想像できるのだが。
 翔太の顔を見た直人は訝しげな顔をしたが、すぐに、ふ、と笑うと、ソファに背を預けた。

「ま、そうだな。伝えるか。戸叶のこととか放置するわけにはいかないからな」

 直人は不敵に笑う。翔太はそんな直人にの表情に見惚れた。はっと我に返ると、不自然に視線を逸らした。直人は数秒翔太を見つめ、立ち上がった。

「翔太」

 翔太は顔を上げた。直人は優しく笑って、告げた。

「お前の気持ち、嬉しかった」

 直人はそれだけ言って、背を向ける。翔太はくしゃりと顔を歪める。ありがとうございます。そう告げた声は、震えていた。