『伝え忘れてるだけじゃねえのか。そんなに心配しなくても、遊びにでも行ってるだけだろ』

 直人が面倒臭そうな声でそう言えば、翔太はむっと口を曲げる。確かにその通りかもしれないが、そういう言い方はないのではないのか。

「でも…」

 こういうことは今までなかったのだと言おうとした翔太は言葉を発する。しかし、それは直人により遮られた。

『…まあ、外出しているか確かめてやるよ。風紀にも一言伝えておく』
「あ、ありがとうごいざいます!」

 翔太は、ほ、と息を吐く。風紀に伝えたところで…とは思うが、何もしないより良いだろう。じゃ、と話を終わらせようとした直人を、翔太が慌てて制止をかけた。不思議そうな直人の声。翔太はごくりと唾を飲み込んで、今日会えないかと訊ねたのだった。











 「外に出たみたいだぞ」部屋に入るなり、直人が告げた。その頃には翔太も冷静になっており、淳也に連絡をしないないことに気づいていた。一度連絡をして、繋がらなければ直人に連絡をした方が良かったと後悔したが、どっちにしろ淳也は電話に出なかっただろうなと翔太は思う。翔太は礼を言って、直人を椅子に座らせた。

「――で、何だ?」

 直人が用件を訊ねる。

「会長、昨日…淳也に、会いましたよね」

 ぴくりと直人が反応する。不敵に笑いながら、どうしてそう思うと訊ねた。翔太は視線を斜め下に移して、気まずそうに告げた。

「淳也の様子がおかしかったから」
「ああ、それでどこに行ったか気になったんだな。……翔太の言うとおりだ。俺は、昨日あいつに会った。中村から何か聞いたか」
「いえ…」

 放心状態だったと、伝えるべきか。翔太は少し迷って、結局何も言わなかった。視線を上げると、依然として笑っている直人の姿。直人は、言った。「それで?」

「それがどうしたんだ」
「…ちょっと確かめたかっただけです。来てもらったのは、直接伝えたいことがあったからで…」
「直接伝えたいこと?」

 翔太は顔を強張らせ、俯いた。直人はその様子を見て、訝しげに眉を上げた。翔太は喉の渇きを感じた。心臓が煩く脈打ち始め、ぎゅっと手を握る。翔太は緊張していた。ぱっと顔を顔を上げ、直人の瞳を見つめる。
 翔太は、直人が好きだ。しかし、淳也も好きだ。だから。翔太は自分の気持ちに終止符を打つことにした。

「俺、会長が好きです」

 直人はその言葉を受けて、漸く不敵な笑みを崩した。