(No side)

 翔太は淳也の様子がおかしいことに気づいていた。そしてその原因も見当がついている。日向を部屋に送ったまま帰ってこない淳也が気になって連絡した。淳也ではなく、日向だ。仲良くなりたいという気持ちから、日向に送ってみたのだ。一緒にいるかという質問に対し、答えは否だった。淳也は大分前にそっちに向かったという返事が来た。淳也が強いのは知っているし、こうしてサボることもないことはなかった。だから翔太はそこまで心配はしなかった。
 授業を終え、帰って来たら淳也が放心していた。どうしたのだろうと声をかけてみるが、返事はない。淳也が反応する言葉を探して腕を組んだ翔太は、昼休みのことを思い出し、あ、と声を出す。内容は、会長――直人の機嫌が悪かった、ということだった。すると、びくりと体を震わせ、みるみる内に青ざめるではないか。翔太は瞬時に理解する。淳也のことを放心させたのは直人のせいであると。淳也が今日来なかったのは、直人と何かがあったのだとも。そして。直人の機嫌が悪かったのも……。
 そのまま淳也は部屋に籠ってしまった。それを心配そうに見つめながら、視線を落とす。元々直人は、最近機嫌があまり良くなかった。淳也が副会長である紫炎と親しげだということや、日向と付き合っているということが気に食わないのだろう。








 翔太が起きたのは八時だった。休日なのだから二度寝を、と思って目を閉じるが、目が冴えてしまって眠れなかったのである。仕方なく起き上がって部屋から出ると、しんとしていた。まだ淳也は起きていないのかと思った翔太は、ソファに座った。
 淳也は基本的に、午後まで寝ない。だからもうすぐ起きると、翔太は思っていた。ところが十二時を過ぎても、淳也は姿を現さない。おかしいと感じた翔太は、部屋をノックする。返事はない。眉を顰め、開けるぞと声をかけて、ドアを開けた。部屋は無人だった。淳也が何も告げず、どこかへ行くなんて今までなかったことだ。翔太は汗をたらりと流した。昨日の淳也の様子が頭にちらつく。このまま帰ってこないような、不安があった。は、と我に返った翔太は、携帯を取りに部屋へ戻る。履歴から直人の名前を探し、一瞬躊躇してから、電話をかけた。
 無機質な音が数回流れて、その音が途切れる。次いで聞こえてきた声に、翔太は挨拶もせずに、あの、と口にする。

『どうした?』

 翔太の焦りように、直人の声が固くなる。翔太は、何度かつっかえながら、淳也がいないことを告げた。