お茶をちびちびと飲んで、奴が放し始めるのを待つが、一向に話が始まらない。クソ会長を見ると、目を瞑っていた。俺は思わずごくりと唾を飲み込む。そして今更ながらに緊張してきた。
 眠っているのだろうか。目を閉じているその姿は穏やかで、いつもより幼い。

「おい」

 控えめに声をかけてみる。しかし、無反応だった。今度は強めに呼んでみるが、結果は同じだった。

「どうしろっつーんだよ…」

 部屋の中に俺の声が空しく響いた。立ち上がって一歩、クソ会長に近づく。一歩、また一歩と足を進め、目の前までやってきた。
 寝にくくないのだろうか。この体制で寝ていたら、肩が凝りそうだ。俺が今まで座っていたソファに座れば良かったじゃねえかよ。何で俺に……。
 俺はそろそろと手を伸ばす。もう少しで顔に届くというところで、ズボンの中で携帯が震えだした。びくりとして肩が跳ねる。さっと距離を取り、背を向けた。ばくばくと心臓が煩い。誰だよこんな時に…! と考えて、いや、ちょっと待てと頭を振る。こんな時ってなんだ。俺は何を考えてんだ。
 羞恥で顔に熱が集まり、くそ、と呟きながらポケットに手を突っ込む。そして携帯を取り出す。

「…っ」

 俺は息をのんだ。日向からだ。どうしてこのタイミングで。まさか見られていたり、盗聴されていたりするんじゃないのか。熱かった顔が一瞬で冷める。手元で鳴り続けている携帯を見つめ、どうしようと焦る。早く出なければならないのに。
 ふうと息を吐いて、電話に出る。俺は平静を装って言葉を発した。「もしもし」

『あ、淳ちゃん?』

 日向の声が明るいことにほっとする。どうやら俺がクソ会長と一緒にいることを知っているわけではないようだ。

「どうした?」
『淳ちゃんさあ、今どこにいんの?』

 一瞬びくりとしたが、声のトーン的に、普通に居場所を訊いているだけだろう。…しかし、役員専用――今はクソ会長専用らしいが――の建物にいるなんて馬鹿正直に言ったら絶対面倒なことになる。

「……何でだ?」
『え?』
「お前、普通は授業中に電話かけてこないだろ」
『転入生君が淳ちゃん来てないって言ってたからさあ』

 翔太に聞いたのか。……って、翔太? そういえば連絡先を交換していたかもしれない…。もしかしたら翔太が俺が来ないのは日向と一緒にいるからかもしれないと思ったのかもしれないな。