そういう顔を見せられると、心臓が脈打つ。やはりこいつが好きなんだと、その度に自覚させられる。期待してはいけないのに、してしまう。悲しいというか、段々イライラしてきた。そういう顔は翔太に見せていればいいんだ。
 ……俺には、日向がいる。自分に暗示をかけるように心の中で呟いた。

「…もういいだろ?」

 今度こそ去ろうと思ったのに、奴はまあ待てよと俺を引き留めやがった。

「まだいいだろ」
「まだいいって…話すこともねえし、遅刻すんだろ」

 何言ってるんだこいつ。クソ会長を睨む。奴は俺に一歩近づいて、ふんと鼻で笑った。

「別にいいだろーが、少しくらい。つーか、あるぞ」
「は? 何が」

 少しでもよくねーよ。心の中でツッコんで、俺はそのあとの言葉に首を傾げる。あるぞって、何が。

「話して―こと、あんだよ」
「お前が…?」

 俺に? 一体何の話があるというんだ。胡乱な目でクソ会長を見ると、真剣な顔をしていた。どきりとする。…もしかしたら、翔太の話かもしれない。
 嫌だ。そう思うが、気が付くと頷いていた。慌てて舌打ちして、面倒臭そうに顔を顰める。不自然だったかと不安になったが、クソ会長は特に気にしてないようで、じゃあ行くぞと歩き出した。
 付いて行かなくてもいいんじゃないか。一瞬だけそう思って迷うが、結局付いて行くことにした。後が怖いし、そもそも俺を逃がすことはないんじゃないかと思ったからだ。









 会話することなく辿り着いたのは、役員専用の建物だ。詳しくは知らないが、指紋認証システムを搭載しているらしい。俺は無駄に豪華な建物を見上げて溜息を吐く。こんな建物不要だろ…。無駄なところに金かけてるんじゃねえよ。
 げんなりしている俺の横で、クソ会長がごそごそと何かをやっていた。そして、すぐにピ、と音が鳴る。先程述べた指紋認証システムの音だろう。

「犬、入れよ」

 ピピピ、と音が鳴って、次いで鍵が外れる音がした。ロック解除したんだろう。俺はちらりとクソ会長を見て、どーもと棒読みで言いながらドアを開けた。