深い溜息を残して洗面所を出ると、吉貴が何を考えてるのか分からない顔で、吐いたのか、と呟いた。力なく頷くと、カレーに視線をうつす。まだ一口分しか減っていないそれを見ているだけで嘔吐き、口を押さえて視界から外す。

「どうするんだ、お前」

 今日の食事のことか、それととこれからのことか。恐らく両方だろうなと思い、俺は小さく唸った。

「とりあえず今日は、食パンで済ませる。これからのことは…その」

 俺はもごもごと言葉を紡ぐ。お前の作ったものを食べられるようになるかもしれない、だなんて。言いにくい。

「何だよ」

 吉貴は痺れを切らし、眉を顰め、俺を睨む。俺は舌打ちして、これからのことはまだ分からないが、もしかしたら食べられるようになるかもしれないということを告げた。それを聞いた吉貴は目を少しだけ丸くする。

「ふうん…そうなのか」

 食器を持ち、立ち上がると俺の横を通りすぎていく。それだけかよと吉貴の反応に若干の不満を覚えながら、俺はソファに座った。流石に吐いた直後で食べられないからな。
 何もやることがないので携帯を取り出す。そして、そういえば充から連絡がないなと、充の顔を脳裏に浮かべる。電話でもしてみるかと思ったが、面倒になって止めた。次いで思い浮かべたのは、あの女のことだ。吉貴いわく、俺が知り合いに似ていると言っていたらしい。それは人違いだったようだが、……本当に人違いなのか? この前見た夢に出てきた女――確か、りょうとかいう少女――の可能性はないだろうか。あれはただの夢だと言えばそうなんだが、何だかモヤモヤする。
 夢の少女と同一人物でなければ、俺が昔……人嫌いになる前に、遊んでいた奴?

「……分かんねえなあ」

 まあ、もう会うことはないだろう。俺はごろりと横になって、息を吐いた。