(No side) 「りゅーくん!」 「りょうちゃん?」 りょうと呼ばれた少女がりゅーへと駆け寄る。花が咲くように笑うと、りゅーへと抱き付いた。それを受け止めて、りゅーは笑う。りょうはりゅーの胸に埋めた顔を上げると、きょろきょろと周りを確認した。ゆーという少年が、いないかを。 「りょうちゃん?」 りゅーは不思議そうに首を傾げる。ううんと首を振って顔を緩めると、りょうはりゅーの手をぎゅっと握った。 「あのね、りゅーくん! 来て来て!」 「え? え?」 ぐいっと、可愛らしい少女からは考えられないような力で引っ張られ、りゅーは目を丸くしてりょうに付いて行く。 連れて来られたのは公園の隅っこだった。りょうはしゃがんで、地面を指差す。なんだなんだとりゅーもりょうに倣う。指の先には四葉のクローバーがあった。 「あっ!」 りゅーは目を輝かせる。そのままりょうを見ると、少女は誇らしげな顔をして笑っていた。数日前、りゅーが四葉のクローバーが欲しいと言っていたのをしっかり聴いていたのだ。 「りょうちゃん! 凄いや!」 「えへへへ。りゅーくんのために探したんだよ! はい!」 りょうは頬を朱に染めながらクローバーを摘む。そしてそれをりゅーに差し出した。りゅーは丸い目をさらに丸くして驚く。 「ええっ! これ僕が貰っていいの?」 「うん!」 「わあっ。ありがとう、りょうちゃん!」 満面の笑みを浮かべるりゅー。そして、彼は立ち上がる。りょうは急いでどこかへ向かおうとするりゅーの手首を慌てて掴んだ。 「ど、どこに行くの?」 「ゆーくんに渡すんだ!」 「……え?」 少女は呆然として、呟く。その声は吃驚するほど低かった。しかしりゅーはりょうの変化に気付かず、そのままの調子で言い放った。 「ゆーくんが欲しいって、言ってたんだ! 早く持っていかなきゃ!」 りゅーは走り出す。りょうのことなど、もう気にしていなかった。 「なんで……」 りょうは呟いた。その顔は醜い嫉妬で塗りつぶされていた。 → |