このままじゃ不味いな。人のいないところにいるよう指示すると、俺は放置していたカゴへと足を向けた。ちらちらと京嶋を視界に入れ、ビニール袋に買ったものを詰めていく。詰めるだけなので時間はそうかからず、俺は青い顔の京嶋に再び近寄る。そして、帰るぞと言うと、京嶋は心ここにあらずと言った様子で頷いた。
 スーパーを出ると、黙って後ろを歩いていた京嶋が声をかけてきた。

「なあ」

 振り返らずに何だよと返すと、固い声が飛んできた。

「あの女、ほかに何か言っていなかったか?」
「いや、別に」
「…そうか」
「人違いだった、みたいな反応はしてたけどな」
「はっ!?」

 京嶋が素っ頓狂な声を上げる。立ち止まって振り返ると、あんぐりと口を開けたあほみたいな顔をしていた。「人違い!?」確かめるように叫ぶ京嶋に頷くと、わなわなと唇を震わせる。

「な、なんだそれ! 早く言えよ!」

 あからさまにほっとした表情を浮かべた後、むっと顔を顰める。ころころ表情が変わる奴だなと思いながら、俺は再び前を向いて、口角を上げた。

「人違いか、そっか…」

 言いながら隣に並ぶと、深い溜息を吐く。先程まで青かった顔は、いつも通りの顔色に戻り、ついでにふてぶてしい顔つきになった。俺はなんとなくそれを横目で見ながら、歩を進めた。







「あー……つっっっかれた!」

 京嶋は叫んで、ソファに倒れこむ。俺も答えるように頷いて、溜息を吐いた。冷蔵庫に入れなければならないものを袋から取り出し、ちらりと京嶋を見る。
 学校に行くことになってしまったが、今日の京嶋を見ていて、無理じゃないかと思った。仮に行ったとして、こいつの唯一の知り合いカテゴリーに入る俺が世話係にでもされたらたまらない。はあと深い溜息を吐いて、冷蔵庫へと向かった。