(side:由眞)

 カレーの材料を買って、袋に材料を詰めようとした時。ちゃんとじっとしているか気になった俺は、目を遣って眉を顰める。京嶋に何か話しかけている女がいた。歳は俺たちとあんまり変わらそうだ。京嶋の顔色が悪い。今にも倒れそうだ。俺はカゴと京嶋たちを交互に見遣って――京嶋を選んだ。ここで倒れられたら、俺が京嶋を運ばなければならない。
 俺は京嶋たちに早足で近寄る。すると、女が京嶋を引き留めようとしたのか、手を伸ばす。やばい、俺も、そして京嶋もそう思ったのだろう。顔を強張らせる。俺は走って、女の手首を掴んだ。強く握ってしまったらしく、女の顔が痛みで歪む。力を少し弱めて、言った。

「すみません、こいつ体調悪いんで」

 京嶋が目を見開いて俺を見たのが分かった。女は頬を染めて俺を見上げ、戸惑ったような声を上げる。

「え、あ、そ、そうなんですか…?」

 女はちらりと京嶋を見る。京嶋はというと、なぜかぼーっとしていた。しかしその顔は青いので、女は納得したように頷く。そして、申し訳なさそうに眉を下げた。

「こいつと知り合いですか?」

 その可能性は低いが一応訊ねてみる。女は少し迷って、首を振った。

「では、何か用が?」
「……昔、よく遊んでいた人に似ていたので…あの、すみません!」

 女は勢いよく頭を下げると、ぐるりと体を方向転換させて走り去っていく。……昔、遊んでいた人に似ていた? 胸辺りがモヤモヤして、俺は顔を顰めた。何かを忘れているような……。
 未だにぼんやりしている京嶋に視線を遣って、いつから人嫌いになったんだろうと疑問が湧く。

「……お前、買い物は」

 漸くしっかりこっちを見た京嶋は、ぼそりと呟く。

「置いてきた」

 カゴを指差すと、京嶋が目を丸くする。そして交互に見るものだから、居心地が悪い。

「倒れられたら困るから。…それだけだ」
「ふうん…」

 うわ。うぜえ。
 ニヤニヤ顔の京嶋を睨む。殴ってやりたいと思いながら髪を掻いていると、京嶋がそういえばと発する。

「結局あの女は何だったんだ…?」
「…昔の知り合いに似ていたっつってたけど」
「あ……?」

 何も考えずにそう告げると、京嶋の顔は一瞬で青ざめる。うそだろ、と呟く声はか細かった。