吉貴と親しくなるつもりはないので、俺が学校へ行く日は来ない。そういうことだ。俺は笑って、それでいいと答えた。親父は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「本当かい?」
「ああ」

 俺は大きく頷いて見せた。吉貴はそんな俺を信じられないような顔で見ている。俺が首を縦に振ることはないと思っていたんだろう。
 親父は勢いよく立ち上がって、鞄を持った。

「そうかい、良かった! じゃあお父さん手続きしてくるね! 流馬、由眞くんと仲良くするんだよ! それじゃ」

 口早にそう告げると、親父は俺に背を向けた。……え!?

「ちょ! え、ちょっと待て! 手続きなんてしなくていい!」

 親父の背に叫ぶが、俺の声は届かなかったようで、親父は部屋から消えた。俺はがくりと肩を落としてテーブルに手を付く。

「最悪だ…」
「……お前、馬鹿だろ」
「うっ、うるせえ!」

 溜息交じりの声で、吉貴が呟いた。顔を上げて吉貴を睨むと、奴は心底呆れたという顔で俺を見る。

「……つーかテメェ、学校なんてものに行きてえのかよ」

 それとも、断れなかっただけなのか? 俺は気になったことを吉貴に訊ねる。吉貴は俺から視線を外して、別に、と答える。

「行きたいとは思わねえな。人がウザい」
「だったら…」
「断れなかったわけでもねえよ」

 じゃあ、何でだよ。俺はじろりと睨む。俺を一瞥した吉貴は、何かを考えるように視線を漂わせて、最後に眉を顰めた。

「人が嫌いなだけで、勉強は嫌いじゃない。ここで勉強するより、ちゃんとしたところで勉強した方がいいだろ」

 尤もらしい理由だったが、俺には他に何か、理由があるように感じられた。吉貴が学校に行きたい理由は知りたいが、何をしたいのかは別に興味がないので、俺は適当に相槌を打って、会話を終わらせた。
 ……どうにかして、親父を説得しねえと。だが、ここ最近の親父は、些か強引に感じる。いや、些かどころではない。凄く強引だ。俺を吉貴と住まわせたり、学校のことも、以前までは行ってほしいな、というくらいだったのに。

「最悪だ…」

 俺はもう一度呟く。吉貴からの馬鹿にした笑い声も何もなかったのでちらりと見ると、先程まで立っていた場所にいなかった。周りを見てみても、姿はない。……何か一言残して出て行けよ。俺は舌打ちをして、自分の部屋に向かった。