「どこだよ」

 俺は面倒臭くなって、欠伸をしながら親父に訊ねる。親父は笑みを深めて、何かを取り出した。テーブルの上に置かれた書類。その隣にあるパンフレットに顔が引き攣った。嫌な予感が当たった。

「学校に」
「嫌だ」
「ええっ、まだ最後まで言ってないよ」

 吉貴も親父が何を言わんとしているのか分かったようで、苦々しい顔をしている。しかし口を出さないのは、拾われ、養ってもらっている立場だからだろうか。そんなの気にしなくていいから親父の言うことを聞くんじゃねえぞ。

「俺は絶対行かねえからな」
「……由眞くんは? 由眞くんは、学校に行きたくないかい?」

 親父は俺から視線を外し、吉貴に笑いかける。そして、パンフレットを差し出してくる。

「……俺は」

 吉貴の目が泳ぐ。まさか。まさか――行きたい、なんて言わないよな? 吉貴は自分と同じだと思っていた俺は、裏切られたような気持ちだった。学校なんて行く必要はないと、断言してほしい。吉貴は言葉を失っている俺を一瞥し、目を伏せた。

「……行かないと言ったら?」
「また時間を置いて来るよ」

 吉貴はもう一度俺を見る。諦めろ、という目をしていた。親父に視線を戻し、溜息を吐く。

「分かりました」
「…流馬もいいね?」
「おっ、俺は……」

 手が震える。もう学校は始まってる時期だ。今から行っても、好奇の視線に晒されるだけだし、俺は……学校になんて、行けないし行きたくない。

「由眞くんと同じクラスにしてもらうから。……どうかな」
「どうかな…って」

 吉貴がいたら何か変わるというんだろうか。吉貴も俺も、絶対浮く。
 というか、吉貴は俺と一緒でいいのか…? 気になって、吉貴を見る。吉貴は、じっと俺を見ていた。――何を考えているのか分からない顔で、俺を。
 俺はぎゅっと手を握りしめる。親父は俺の返答を待っていた。だが、何かを思い付いたらしく、あ、と声を上げて笑った。

「無理はしなくていいんだ。ちょっと行ってみて、大丈夫だったら次の日も行けばいい。それに、すぐに学校というわけじゃないんだよ。流馬が由眞くんともっと親しくなってから、って話だ」

 なんだ…すぐじゃないのか。俺は安堵して息を吐く。