田口、頼むから余計なこと言ってくれるなよ。そう伝えたいが、ここで視線を外すと怪しいと思われるかもしれない。俺は平静を装いながら、世津に話しかける。

「どうして俺だと?」
「んん? ん〜、だって、あの白木くんだしねえ。それに、黒髪だって言ってたから」

 あの、とはどういうことだ。世津は訝しげな俺ににんまりとした笑みを浮かべた。

「白木くんって、一匹狼タイプなんだよ。誰かとつるむなんてないのね。だから、突然現れたこととか、黒髪ってことで社クンかなって」
「黒髪の奴は限られてるしな」

 二人の言葉に心の中で舌打ちする。

「俺じゃねえ」
「ええーなんだあ」

 きっぱりと否定すると、世津がぶう、と頬を膨らませた。男のそんな顔を見てもな…。微妙な顔をしながら、世津から視線を外す。

「つまんないなあ」

 そんな世津の声は無視だ。

「ねえ、たぐっち〜。社クン、朝いたの?」
「へ!?」

 諦めたかと思ったら、ターゲットが田口に変わっただけだった。こいつ、どんだけだよ…。呆れた顔で溜息を吐く。そして田口をちらりと見た。……分かってんだろうな、田口よ。

「ああ、うん。朝、ちゃんといたぜ」
「遅刻したのはなんで?」
「なんでって、…ね、寝坊したから」

 田口がぱちぱちと瞬きをする。おい、回数が多いぞ。ボロは出すなよ。

「たぐっちだけが?」
「おう……ん?」

 俺は口を引き攣らせた。