寮の中はまだ静かだった。何事もなく部屋へと辿り着き、カードキーを取り出してドアを開ける。

「やしろおおおおおおお」

 凄い勢いで田口が飛んできた。驚いてびくりとすると、田口はがしっと肩を掴んでへなっと勢いを無くした。

「はあああああ」
「お、おい」

 俺は溜息のような、安堵の息のようなそれに目を丸くした。どうしたと問う前に、田口がはっとして俺の体をぺたぺた触りだした。この学園があれなのでこういう接触は警戒してしまうが、相手は田口。しかもそういう触り方ではなくて、確かめるようなものだったので気の済むまで触らせた。
 田口はちらりを俺を窺うように見た。そして、ふうと息を吐く。これは安堵のものだとすぐに分かった。

「変な奴に絡まれなかったか? つかどこ行ってたんだよ!」
「少し散歩にな…。とりあえず、上がっていいか?」
「あ、お、おう」

 一瞬呆けた田口は、ここがまだ玄関であることに漸く気付いたのか、ささっと退いた。俺は肩を竦めて靴を脱いだ。









「それで?」
「あ?」

 田口が買ってきたパンを口に含みながら、眉をくいと上げる。中々の味だなと感じていると、田口が少しイライラしたようにテーブルを爪で鳴らす。

「どこに行ってたんだっつの。起きたらいねえし、電話出ねえし、中々戻ってこねえし」

 俺はごくりとパンを飲み込んだ。「スマホ、忘れたんだよ」

「忘れたって…はあ…」
「あと、お前が心配するようなことは何もなかったから」
「…本当かあ? じゃあなんでこんなに遅かったんだよ。散歩にしちゃ長すぎんだろ」
「寝てた」
「はっ?」

 田口の目が点になった。少し気まずくなって、髪をがしがしと掻く。

「おっお前よく無事だったな…!? 朝早かったからつっても、あぶねえぞ!」
「二年の銀髪がいたんだよ」
「二年の銀髪…白木か?」
「ああ」

 そういう名前だったな、そういえば。
 田口はがっくりと肩を落とした。「どういう状況だよ…」ぼそりと呟いたその言葉に、俺は確かにと心の中で頷く。