「アンタは…毎朝あそこに?」
「毎朝ではねえな。気が向いた時くらいだ」
「へえ」

 あそこの空気は中々良かった。毎日銀髪がいるなら遠慮しようと思ったが、違うならたまに行ってみるか。

「…お前、何でZクラスにいんの」
「色々あったんだよ」

 こいつ、何事にも興味なさそうだし、嫌われ者の社定春のことを知らないのかもしれないしな。説明するのめんどくせえ。俺のざっくりした答えに、銀髪は一瞬だけ訝しげな顔をして、すぐに無表情に戻った。

「喧嘩は…強くねえだろ。ほせえし」
「細くねーよ。普通だ普通」

 確かに峯岸みたいな野郎と比べると若干貧相な体つきだが別に華奢ってわけじゃない。ふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした銀髪は、俺をじろりと見た。

「お前一年だろ。あの峯岸と世津のいるところで、よく無傷でいられたもんだ」
「…それは」

 あいつらは面白がっているだけだ。峯岸にもはっきり飽きたらリンチということを言われたし、世津も俺が役に立たないと判断したらポイだろう。俺があの中で信じられるのは――まあ、田口か。

「…もしなにかあったら俺のところへ来い。気が向いたら助けてやる」

 銀髪はにやりと笑った。銀髪が笑ったことに驚きながら、俺は肩を竦めた。「そりゃあ、どうも」

「じゃあな、八代誠春」
「――あ?」

 いつの間にか、寮に着いていた。銀髪は俺の返事を待たずに踵を返してのそのそと歩いていく。……あいつ、俺の名前知っていたのか。生徒手帳を見たからだろうが、覚えているというのは意外だ。
 俺は銀髪が見えなくなるまで、そこに立っていた。