寮を出ると、鳥の囀りと爽やかな風に迎えられた。よし、適当に歩こう。少しテンションが上がって、鼻歌を歌いながら歩いた。
 ――しかし。

「きったねえ…」

 俺は壁の落書きを見ながら呟いた。なんだこれ。元の色が何色か分からないくらい酷いぞ。前見た時は、ここまでじゃなかったと思うが。折角いい気分だというのに。舌打ちをして、視線を外す。視線の先にあるベンチに誰かが座っていた。まさかこんな時間に不良がいるなんてと目を丸くする。よく見ると、銀髪だ。なんだか見覚えがあるような…? 気づかれないように近づいてみると、気配を感じたのか、銀髪が振り返った。そして無表情だったそいつは、一瞬だけ目を見開いた。

「お前は…」

 銀髪が目を瞬かせる。――思い出した。俺の生徒手帳を世津に渡した奴だ。名前は確か……、しら何とか…。年上だったなと思いながら、俺は小さく頭を下げた。

「その節は、どーも」
「生きてたのか…」

 銀髪は呆然と呟いて、俺の体をじろじろ見る。…俺は死んだと思われていたのか? 怪我がないということに関しては俺も驚いている。クラス落ちが決まった時は、絶対無事では済まされないと思っていたからな。

「まあ、なんとか」
「ふーん…隣、座れば」

 え。俺は別に座りたくてこっちに来たわけじゃないんだが…。銀髪が開けてくれたスペースを一瞥して銀髪を見ると、こっちを凝視していた。…座れ、って言ってんのか、これ? 世津や峯岸に比べたらマシな奴に見えるし、…まあ、大丈夫か? 結局視線に耐えきれず、横に座った。漸く視線を外した銀髪はやはり無表情で、ぼんやりと何かを見ている。…なんか、年寄りみたいなやつだな。そしてすぐに銀髪の喧嘩を思い出してその言葉を撤回した。