沈黙が続くので、もう切ってもいいのかと思い始めた時、井出原が小さな声でぼそぼそと言った。聞き取ることができず、あ? と聞き返す。

『それで、社はどうするの…』
「どうするって、何が。どうもしねえよ」
『会長様が戻ってこられたら、社はもう手伝いにこないわけ』
「んん…」

 俺はどうするべきかな、と宙を見る。忘れてはいけない。俺は邦平と戸田の弱みを握らなければならないのだ。自分の身の安全が関わっているのだ。忘れるはずがないだろう。戸田があまりにも悲惨な状態なので何もしなかっただけであり、あのクソ会長が戻ってきたら容赦なく探っていこうと思っている。その時に邦平の弱みも握ればいいわけだ。ただ、邦平が戻ってくるということは、手伝いに行く必要がなくなるということでもある。元々仕事が終わらないだのExcelの使い方が分からないだのという理由で堂々と生徒会室に入れたわけで…。戸田にはお前と仲良くするつもりはないと言ってしまったし。あれは失敗だったな。仲良くなったふりでもしておけば、まだ方法はあった。
 チッと内心舌打ちして、井出原に意見を求めてみた。

「お前はどう思う」
『僕? ……そうだな、社が良いなら、来てほしい。会長様もそれを望むだろうね』
「あいつが?」

 うげ、と顔を歪める。望むって、それ絶対俺にとっていいことじゃないだろう。暴力に訴えてはこないとは思うが…あの短気馬鹿だ。何をしてくるか分かったものじゃない。

「そうだな…考えておく」
『頼むよ。……社』
「あ?」

 もう話は終わりだろうと思って切ろうとしたら、井出原がまた話しかけてきたので眉を顰めた。『あの…さ』歯切れの悪いそれにイライラしてなんだと語調を強める。

『どうして…会長様に、言ったの?』
「……、別に」

 俺は吐き捨てるように言って、井出原の返事を待たずに電話を切った。