(side:誠春)

「――あ?」

 俺はスマホを見て、眉を上げる。井出原から電話がかかってきている。なんだと首を捻り、耳に当てた。

「もしもし?」
『もしもし。あの、社。少し訊きたいことがあるんだけど、今大丈夫?』
「ああ、まあ…」

 俺は立ち上がる。田口はソファで横になって漫画を読んでいたが、俺が立ち上がったのに気づいてこっちを見た。どうした、と言おうとして、俺の耳にあるスマホを見て数回頷くと、再び視線を漫画に戻した。

「いや」

 俺はそのまま自室に入った。ベッドに腰掛けながら、要件を訊ねる。

「それで?」
『社…今日、会長様に会っただろう?』

 会長という言葉にぐっと眉を顰めた。「…会ったけど、それがどうかしたか?」会ったというか絡まれたんだが、まあそれはいいか。…それはいいんだが、何故井出原が知っているんだ?

『その時に…会長様に何か言った?』
「何かって…」

 何か言っただろうか? 記憶を掘り起こしてみるが、お前仕事してないだろと言ったくらいだ。ああ、もしかしてそれか? 腹立てた会長が何かやらかしたのか?

「まあ、言ったな。仕事いつやるのか、つってな」
『…そう。実はね、会長様が来たんだ。生徒会室に』
「ああ……え? そうなの?」

 意外な言葉に目を丸くした。井出原が、小さな声でうんと答える。ふうん、仕事しに行ったのか別の理由で行ったのか知らねえけど、俺の言葉を気にしてだったら面白いな。

「それで? あのクソ会長はどうしたんだ?」
『仮にも親衛隊隊長の僕に向かってクソ会長ね…。会長様は、社が仕事を手伝っているのに気付いたよ』
「ああ、そうか」
『ああ、そうかって…何、もしかして自分から言ったの?』
「いや」

 クソ会長は性格に難ありだが、無能なわけじゃない。俺がどうして戸田が仕事をしているのを知っているのか、不審に思ったはずだ。俺と戸田が仲が良いならまだしも、戸田は俺のことを嫌っていたから、尚更だ。

「それに近いことは言ったがな」

 ふんと鼻を鳴らすと、井出原が黙った。