ふと井出原は疑問に思った。何故、何日もここに足を運ばなかった邦平が、突然やってきたのだろうと。しかも、自分たちより先に、誠春のデスクへ向かったのだろうと。
 まさか、と思う。何らかの形で誠春が仕事をしていると知ったのでは。それならばいくら取り繕ったとしても意味がない。井出原はギュッと手を握った。

「……会長様は、誰だと思っているのですか」
「…ッチ、質問に質問で返すんじゃねーよ」

 邦平は不機嫌顔で舌打ちをした後、にやりと笑った。「八代だろ。八代誠春。元書記だ」
 戸田は慌てたように井出原を見る。井出原は、強張った顔で邦平を見ていた。――邦平は確信している。では、どうして分かったのか? それが問題である。井出原は心の中で誠春に謝罪して、口を開いた。

「……確かに、彼です」
「ちょっ、井出原くん!?」

 ぎょっとした戸田が井出原と邦平を交互に見る。邦平はやはりなと目を細める。

「…会長様、どうして彼だと思ったのです」
「それは…」

 邦平は言葉に詰まる。誠春に会って仕事をしているのは戸田だと教えられたからとは言いにくい。自分でサボっていますと言っているようなものだ。勿論戸田も井出原もそのことは知っているが、自分からわざわざ口にしたくなかった。

「あいつが、生徒会の事情に詳しかったからだ」

 邦平は気まずさから目を逸らした。暴君の珍しい反応に井出原と戸田は少し驚いた。そして、邦平の言葉を聞いて更に驚いて、目を見開く。

「あ、あいつって…」

 戸田は口をひくりと引き攣らせた。「もしかして、やしろ、とか…」言わないよね? と続くはずだった戸田の言葉を遮るように邦平が頷いた。

「さっき会ったんだよ」
「ええ…」

 井出原は二人の会話を聞きながら、眉を顰めた。誠春が生徒会の事情に詳しい。つまり、誠春が生徒会について、話したことになる。ここへ来させるために話したのだろうか? それともただの嫌味? 誠春の意図が分からず、結局そこで考えるのを止めて井出原は邦平と戸田の顔を交互に見た。