ギロリと睨まれている井出原たちは、恐怖というより困惑していた。暫く姿を現さなかった人物がなぜ、いきなり。しかも一人で。更に井出原は、彼の向かったデスクに嫌な予感を覚える。何故ならばそこは――社定春、もとい八代誠春が使用していたデスクだからだ。誠春が再びここに来てから、溜まった埃等をを掃除して綺麗になったデスク。邦平は自分のデスクを見遣った。恐ろしく汚いというわけではないが、それなりに埃が溜まっている。邦平は、今度は井出原に視線を遣る。井出原が使用しているのはデスクではなく、恐らくどこからか持ち運んだ机。

「おい」

 邦平は低い声で声をかけた。二人は顔を見合わせて、互いに指を差す。自分ではなくお前が声をかけられたじゃないかとことを表す指だ。邦平はくっと眉を寄せながら言った。「テメェらに言ってんだよ」

「な、なんでしょう?」

 二人はごくりと生唾を飲んだ。生徒会室に、時計の針が時を刻む音が存在を主張した。邦平はトンと誠春のデスク――今は千聖のデスクだが――を人差し指で叩いた。

「このデスク、誰が使った?」
「えっ……!?」

 二人の心臓がドキリと跳ねる。そして額に汗を浮かばせながら、戸田は笑った。その顔は引き攣っている。

「な、何言ってんの〜?」
「千聖はここに来ていない。そこの親衛隊もこのデスクを使っている風には見えねえ。……だとすれば、ここにテメェら以外の奴が来てるってことだろ。何人の親衛隊がここに来て仕事をやったのか知らねえが、机を持ち込んで、且このデスクだけが綺麗ってことは、親衛隊はデスクを使ってねえ。一般生徒がここに来て仕事をするっつーのもリスクが高い。――おい、もう一度訊くぞ。このデスクを使っているのは、誰だ」

 井出原たちは青ざめた。邦平は、誰がここに来ているか、気づいている。しかしここで誠春に手伝って貰っているなどと言ってしまえば、誠春を売ることになってしまう。彼らは誠春の信用を失いたくなかった。特に井出原は、一度彼を騙している。どうすればいい
のだろう、二人は青い顔で考えを巡らせた。