俺を八代として呼んだのか、それとも嫌われ者の社と分かって呼んだのか…どっちだ? どっちにしろ、関わりたくねえ。俺は聞こえなかったふりをしてそのままここを去ろうとした。

「おい、テメェ社だろ!」

 俺は怒号に近いそれに、溜息を吐いた。周りにほとんど人がいなかったからいいものを…。

「おいおい、…図書館で大声出すなよ、生徒会長さん」

 そいつは俺の嘲笑に不愉快そうな顔をして、大股で近づいて来た。なんで今日はこんなに面倒な奴らに遭遇すんだよ。げんなりしながらクソ会長を見ていると、奴は目の前までやってきた。そして上から下まで品定めするように見られる。

「…八代誠春っつーのは本当だったみてえだな…」

 なんだこいつ。俺を引き留めたのは、確かめたかったからかよ。

「だからなんだよ」

 じろりと睨むと、一瞬驚いたように目を見開いたクソ会長は、俺を睨み返した。

「テメェ誰に向かって、んな生意気な態度取ってんだよ」
「勿論お前に決まってるだろ、仕事をしねえクソ会長様」
「あぁ!?」

 ふんと鼻で笑えば、面白いくらい反応した。

「仕事してねえって――」
「事実だろ? …仕事してないのに、よくそんなに堂々としていられるもんだ」

 そこで、クソ会長は言葉に詰まり、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「今誰が仕事してんのか知ってるかよ?」
「……あ?」

 クソ会長は訝しげな表情をして俺を見た。そして黙る。……そんなことも知らねえなんて、こいつマジでクソだな。いや、知っていてサボってるもの相当なクソだが。

「聞いて驚け。あのサボり魔だ」
「…戸田?」

 クソ会長の目が見開かれる。俺は、口角を上げて言った。「あいつのことは好きじゃねえが、少しは見直したな」