(side:誠春)

「おう、遅かったな……って、」

 部屋に戻ると、田口が玄関までやってきた。腹を擦りながらやってきたところを見ると、待ちきれなかったのかもしれない。そんな田口は、俺を見るとぎょっとした。

「ど、どうしたんだ」
「…あ?」
「なんかすげー疲れてね?」
「面倒な奴らに会ったんだよ」

 田口が疑いの目で俺をじっと見た。「それだけか?」俺はその言葉に頷く。

「まあ怪我もねえみたいだし…本当にそれだけみたいだな」

 誰かに絡まれたと思っていたのか。確かに、その確率は高いし、その時は間違いなく俺はボコられる。そう考えると諸星がいて良かったのかもしれないがな。あれだけ言ったんだからもう近づいてこねえと思う。

「よし、じゃあ食べるか」
「おう」

 頭の中からあいつらを消去して、俺は高菜のお握りを一つ手に取った。















「よう」

 げっ。
 俺は目に優しくない色の机に足を置いてニヤニヤしている男を見てげんなりとした。

「峯岸さん! おはよーございます!」
「おう」

 隣で元気に挨拶している田口。それに軽く返事をした奴――峯岸は目を細めて俺を見た。

「おいおい社クン〜? この俺様が挨拶したっつーのに、シカトかよ?」

 教室中の不良が騒ぐのを止めてこっちを見た。俺は冷や汗を垂らした。

「……オハヨウゴザイマス」

 顔を引き攣らせながら言うと、満足そうに笑った。くっそ、腹立つ。しかしここで逆らったら俺の明日はない。…とりあえず、世津がいなくて良かった。あいつがいたらもっと面倒なことになったに違いない。俺は席に着く。その間もじっと見られていて、気分が悪かった。峯岸がいるのも最悪だが、いないのも最悪だろう。結局俺に平和な日々はないのかと溜息を吐きたくなった。