「っ俺は」
「…お前らうるせーんだけど。言っとくが、俺はお前らと馴れ合うつもりねえからな。諸星は偶々会うだけで、戸田は仕事覚えるまでの関係だ」

 睨みあう俺たちを八代が呆れた顔で見る。…なるほどな。俺はちらりと会計を見た。ショックを受けたような顔をしている。こいつ、仕事サボってやり方分かんねえわけか。だからこいつに助けを求めている、と。俺は視線を八代に戻した。こいつ、自分でどうにかしろと言いそうなのにな。まあ、会計のことを許したってわけじゃなさそうだが。

「だから、さっさと仕事覚えろよ」
「う、うん…頑張るよ〜」

 会計は笑うが、ぎこちない笑みだった。八代は訝しげにその顔を見つめたが、すぐに俺に視線を移した。いきなりだったので少し驚いた。

「…お前が俺に近寄ってくる理由が漸く分かった」
「あ?」
「俺の顔が思い出せなくてモヤモヤしてたんだろ? 思い出せて良かったじゃねえか」

 八代はふ、と笑う。あの時と同じ笑みに、どきりとした。そして同時にモヤモヤとする。その笑みがだから関わるなよと言っているようだったから。

「ちが…」
「じゃ、俺行くから。田口を待たせてるからな」

 そう言う八代の腕には大量のお握りが抱えられていた。そして俺と会計を置いて、八代は行ってしまった。俺たちは無言で八代の背中を見つめる。

「仕事を覚えるまで…か」

 ぽつりと会計が呟く。

「そうだよね、そういう話だったし…」
「テメェ随分ショック受けてるじゃねえか」
「……諸星だって」

 俺たちは顔を見合わせる。会計は暗い顔をしていた。俺も、きっとそんな顔をしているんだろう。はあ、と溜息を吐くと、俺たちはどちらからともなく、その場を離れた。