「お前、末っ子だろ? 兄貴に負けたくないとか、ないわけ?」
「ないわけじゃねーけど、その代わり俺は好きに生きることができるから。親が俺のこと大切にしてるって、ちゃんと分かるしよ」
「へえ」

 八代誠春は面白そうに笑った。

「幸せな頭をしているな」

 俺はその言葉にムッとした。馬鹿にするなと言おうとしたら、それより先に言われてしまう。「馬鹿にしたんじゃねえよ」

「お前はそのままでいろよ」

 そう言って、八代誠春は手を上げて、去っていった。俺はその背に、軽く手を振る。変な奴だと思った。なんで命令口調なんだと思った。だが、お前が言うなら、俺はこのままでいようと思ったのだ。










 三年前の回想から返ってきた俺は、八代誠春を見る。あの時より大人っぽくなっているが、面影がある。そのままでいろという言葉も忘れてしまっただろうか? しかしその言葉どおり、変わってないのかは分からねえ。見た目ははっきり言って変わってしまったが。
 八代と社。誠春と定春。少し考えればもしかしてと思うはずだ。もっと早くに気づいていればと悔やまれる。
 俺は朝食を選んでいる八代を見た後、視線を会計に遣った。

「なあに?」
「お前、知ってんのか。あいつが――」
「知ってるよ」
「じゃあなんであいつといる? なんとも思わねえのかよ」
「それは…まあ、そうだけど。てか、諸星が言う資格ないよね?」

 会計は俺を睨む。どういう経緯でこいつらが話す仲になっているか分からない。会計は社定春が嫌いだったはずだ。