(side:恭祐)

 時は三年前に遡る。
 俺が八代家の誕生日パーティに行ったのは、その時だけだ。家を継ぐのは俺ではなく兄貴で、俺は自由に生きろと言われていたから、俺はそういうのに参加することはあまりなかった。ただ、旨いものが食いたいという理由でついて行っただけだ。
 今ではこういうなりだが、その時は黒髪でただ目つきの悪い奴だったから、あまり注意を受けなかった。
 俺は八代誠春なんてのには全く興味がなく、本当に旨いものを食いに行っただけだった。だからにこやかに挨拶しているそいつを、なんだか面白味のない奴だなと思いながら見ていただけだった。そんな俺があいつと会ったのは――外の空気を吸いに行った時だった。














 調子に乗って食いすぎた。俺は腹を擦りながら中庭へと出た。

「ん…?」

 ぼおっと空を見上げている奴がいる。俺はそいつの顔を見て、あれと思う。八代誠春だ。なんでこんなところに一人でいるんだろう? 今日の主役はお前だろ。
 俺はなんとなく、そいつに近づいてみた。

「なあ、なにしてんの?」

 そいつははっとしたように俺を見た。そして、目をぱちぱちさせて、君は、と口にした。そして首を傾げながらにこりと微笑む。「君は、誰?」近くで見るとすげー綺麗な顔をしているんだなって思った。

「俺は恭祐。諸星恭介」
「…諸星、恭祐」

 確認するように呟く。俺は頷いた。にこりと笑っていたそいつは――一瞬にして表情をなくす。雰囲気もとげとげしいものになった。俺は驚いて目を見開いた。

「…ッチ、末っ子かよ。愛想笑いして損した」

 な、なんだあ!? 俺は状況に付いて行けず、口をあんぐりしてそいつを見つめた。

「な、…お前、…え?」
「あ?」
「本当に八代誠春か…?」

 眉間に皺を寄せ、俺を睨む。そして、面白そうに口角を上げた。悪役のような笑みだ。「俺が八代誠春だ」

 そして、ふと八代誠春が俺の顔を覗き込んだ。綺麗に整った顔がぐいと近づいて、俺は少しだけ緊張する。

「お前、なかなか良い目をしてるな」

 そしてふ、と笑う。悪役でも作り物でもない笑顔にどきりとする。目つきが悪いとはよく言われるが、良い目をしているなんて、言われたことがあるのは家族くらいだ。



14/06/13