「何? 俺がここにいちゃダメなわけ」

 ダメだろ! 不法侵入だろ!

「……おい、田口」
「お、俺じゃねえよ! スペアは一つだけだっつったろ!」
「そうだよな…」

 俺は眉を顰めて世津を見る。世津は見せびらかすようにしてカードキーをひらひらさせる。

「……せ、世津? それ、どうしたんだ」

 田口がカードキーを指さして言った。世津はにいと笑って、俺にカードキーを向けた。……あ? 俺?

「これ、社クンのだよ」
「は!? どういうことだ!?」

 田口が疑いの目で俺を見る。違ぇ! 俺はこんな奴に死んでも鍵なんて渡さん! だが……確かにスペアキーをどこかに仕舞いっぱなしにして行方が分からなくなっていた。もしかしたら机の引き出しに置き忘れた、とか…? もしくは、落としたとか…。それで拾ったまま私物化する上に、使って勝手に部屋に入ってくるのはどうかと思うが、どこの誰とも分からない奴に拾われて悪用されるよりはマシかもしれない。
 考え込んでいると、世津があっさりと答えを言った。

「社クンの生徒手帳に入ってたから貰っちゃった」
「は!? なんだそれ」
「この前渡したでしょー、もう忘れちゃった?」
「いやそこじゃねえ! なんで勝手に盗ってんだよ! 返せ!」

 世津はあくどい顔をしてゆっくり、いやと言う。うぜえなんだこいつ。

「なんで返さなくちゃいけないのさ? これは俺のもんだから。峯くんも持ってるし俺が持ってても持ってなくても問題なくねー?」

 言っていることが理解できない。頭が痛くなってきた。俺は頭を押さえた。そんな俺を見ながら、世津は楽しそうに笑う。何を言っても聞かなそうだ。俺はちらりと田口を見る。田口は顔を引き攣らせていた。

「…でも、ここの鍵なんて必要ねえだろ? 自分の部屋があるんだから」
「そりゃ…色々と使い道があるでしょ」

 ねえよ。そんなの親しい仲でもねえし。

「峯くんが社クンに何かしようとしたときも、俺なら止められるよ」
「止めないだろ、お前は」

 世津は肩を大袈裟に竦めた。「俺ってば信用ねえなー」むしろ信用あると思っていたのかお前は。