「……ん、あれ? お前、煙草吸ったか?」
「煙草? ……いや」
「だよなあ…。ハッ、まさか」

 田口は立ち上がると、俺の肩に手を置いた。

「ここに…峯岸さんが来なかったか?!」
「……ああ」

 嘘を吐く必要もないので頷くと、田口はやっぱりという顔で脱力した。そして俺は気づく。峯岸が勝手に入ってくるのは今回に限ったことじゃないのだ。俺は疑いの目で田口を見た。

「お前…峯岸に鍵でも渡したのか」
「うっ…」

 田口はあからさまな反応を見せる。なんてことをしてくれたんだ、お前は。俺の顔を見て、慌てて言い訳を述べ始める田口。

「俺が渡したっつーか、いつの間にか峯岸さんが持ってたつーか!」
「でもお前のスペアキーなんだろ」
「…はい」

 溜息を吐くと、田口がしょんぼりとした顔で俺を見た。まあ、自分から渡したわけじゃねえんだし、あの峯岸に逆らえると思えないから、あんまり責めらんねえな。

「……待て。なんで峯岸がここの鍵を持っていくんだ?」
「俺が一人部屋だったからだろうな。こっちで寝ることもあったし」
「……なんだって?」
「あ?」

 ……こっちで寝ることもあった? おい、まさかそれって…。

「お、俺の部屋で寝てたってことか…?」
「あ。まあ…そう、かも」

 田口はそっと目を逸らした。…これからあのベッドで寝るのすげー嫌なんだけど…。

「一応訊くけど、ほかの奴は鍵を持ってねーよな?」
「そりゃ持ってねーよ。スペアキーは一つしかねえしな」
「残念ながら俺持ってるんだけどね〜」
「そうそう、持って……――え?」

 突然聞こえた間延びした声に俺たちは勢いよく横を見る。ニヤニヤとした世津が小さく手を振る。

「やっほー」
「や、やっほーじゃねえよ! なんで世津が!?」

 世津は田口の言葉ににんまりと笑みを浮かべる。そしてあるものを俺たちに見せた。それは――紛れもなく俺たちの部屋番号が書かれたカードキーだ。