すっきりして洗面所を出ると、日向が翔太を睨んでいた。翔太は何かに耐えるように俯いている。……遅かったようだ。

「おい、やめろ」
「あ、淳ちゃん」
「じゅ、淳也…!」

 助かったとばかりに輝かしい顔を向けられ、苦笑する。

「日向、ちょっと待ってろ。着替えてくっから」
「はーい」
「つーわけで、朝飯は日向と摂ってくるから」
「え、あっ…ま、待って! 俺も行っていいか?」
「はあああああ?」

 正気か? これだけあからさまな敵意を向けられて一緒に行っていいかなんて…。いや、翔太らしいか。しつこいのはあれだが、仲良くしようと努力するのはいいことだ。

「分かった」
「えー!? ちょっと、淳ちゃん」
「別にいいだろ」
「……分かったよ」

 ぶすっとした顔をしているが、しっかりと頷いた。日向の髪を撫でてやると、途端に笑顔になる。こういう単純なところは可愛いんだけどな。いや別にそういう意味の可愛いとかじゃなくて弟みたいなって意味でな。

「じゃ、じゃあ俺用意してくる!」
「遅かったら置いていくからね」
「分かった!」

 分かったって、おい。どたどたと洗面所へ向かう翔太に苦笑していると、ぷっと日向が噴き出した。

「分かっちゃうんだ」

 変な奴、と笑っている日向に安心し、俺は部屋に入った。クローゼットからハンガーにかけられた制服を取り出し、寝巻きを脱ぐ。さっと着替えて一応鞄に必要なものを入れてから、携帯を持ち部屋を出た。
 何やら思いつめたような顔をしてテーブルを見つめている日向に息を飲む。体調が悪いのかと一瞬思ったが、どうやら違うようだった。しかし、この顔は見覚えがある。…翔太も日向も、どうしてこんな顔をするんだ。

「あ――、淳ちゃん、はやかったね〜」
「…ああ、まあ、着替えるだけだからな」
「そっかあ」

 打って変わって笑顔を浮かべる。ずきりと胸が痛んだ。