「おっはよぉ」

 やけに爽やかな顔をしているので、眩しくなって目を細める。俺は適当に返事をして、ドアを閉めようとした。

「ちょちょちょ、何をやっているのかなあ、淳ちゃん」
「うっせえ。…何しに来たんだよ」

 ドアとの間に手を入れてきてやがった。仕方ないのでドアを全開にする。

「何って、恋人を迎えに来ただけだよー」

 にこにこと笑顔を浮かべている日向にげんなりする。お前はもっと自分の身を心配しろ。

「…つーか、お前、そういうのやめろ」
「え、そういうのって?」
「恋人っていうのだよ」
「ええ? だって、淳ちゃん俺と付き合ってくれんでしょ? だったらいいじゃん」

 俺は諦めて溜息を吐く。そして中へと促した。さっき起きたばかりだから、なにも準備していない。

「おじゃまー」

 日向はご機嫌だ。俺が理由だと思うと少し嬉しくもあるが、正直かなり複雑な気持ちだ。俺は日向を利用している。

「…転入生くんは?」
「まだ起きてねえ」
「ふうん」

 更に顔を綻ばせる日向は、余程翔太が気に食わないらしい。仲良くして欲しいだなんてことは思わないが、日向が翔太のことを嫌いなのは完全に俺のせいだからな。

「淳ちゃん、今日も食堂行く?」
「お前行きてえの」
「うん」
「そうか。俺は行くたくねえ」
「だろうね〜」

 へらへらと笑う日向は、俺が折れることを確信している。俺はわかったよと吐き捨てて、洗面所へ向かう。背中に突き刺さる視線が鬱陶しい。
 俺は洗面所のドアに背を預けると、ふうと溜息を吐いた。昨日、あれから翔太とは義務的な会話しかしていない。翔太は俺の様子を窺っているようだった。早く翔太とあのクソ野郎が付き合って欲しいと思う。そうすれば、この報われない想いは消えていくから。しかしあの様子じゃ、翔太から言うのは難しい。となるとクソ会長だが…。どうだろうな、もしかしたら現状に満足しているのかもしれない。あいつ何を考えてるか分かんねえからな…。
 俺は一旦考えるのをやめ、水道を捻る。ばしゃばしゃと顔を洗って、適当なタオルで拭いて。翔太がそろそろ起きてきそうだなとぼんやり思った。