部屋に戻って、本を取り出す。ぱらぱらと捲って文字の羅列を眺めるが、たいして面白くなく、すぐに閉じた。

「暇だ…」

 なんでこんなに暇なんだ。俺、いつも何やってるっけ。ううんと腕を組んで考える。……充と話したり、シェフと話したり…そんなんか?

「暇だ……」

 もう一度呟く。この呟きに反応する奴はいない。ごろごろとベッドを転がってもベッドは硬いし、小さいからあんまり転がっていると落ちてしまう。
 仕方なく起き上がると、俺は舌打ちをして立ち上がる。
 リビングには吉貴がソファに横になっていた。俺は恐る恐る近づく。……寝てる…? 隙を見せそうにない奴が無防備に寝ていることに驚いた。俺と同じでこういうところでは寝ないと思っていたが…。
 じっと寝顔を見つめていると、吉貴の眉間に突然皺が寄った。あ、と思った次の瞬間には不機嫌そうな声が口から発せられる。

「なんだよ」
「…起きてたのか」

 返事はない。おい、シカトかよ! むっとして睨むと、負けじと睨み返してきた。背筋がぞくりとして、バッと視線を逸らす。べ、別に怖いとかじゃなくてだな。見つめ合ってるみたいなのが嫌だってことで、その…。何故か自分に言い訳をしていると、吉貴が溜息を吐く。

「……意味分かんねえ」
「…あ?」

 な、何だよいきなり。
 俺は再び吉貴の方に視線を遣る。不機嫌な顔のまま、ポツリと呟く。

「何がしてーの。俺に関わりたくないなら関わるな。なんで近づいてくんだよ」