副会長には誤解したままでいてもらおう。どうせ可能性のないものなんだ。 「…サンキュ」 『…うん。あの、中村くん』 「あ?」 『また、電話とか、してもいいかな?』 は? 一瞬何でだと不審に思ったが、空音の言葉を思い出し納得する。そういや俺と友達になりたいとか言っていたな。なんで俺なのかとか、良く分からねえけど。 「別にいいけど…」 『えっ、ホントに? ホントにいいのかい?』 興奮して声が大きくなる。俺は耳元から少し離した。 「ああ」 『ありがとう』 そう言う副会長は嬉しそうで、それは顔を見なくても伝わってきた。自然と俺の口元も緩む。 じゃあ、と言って電話を切った。そしてベッドに寝転がる。 身を引くのも一つの恋の形。昔見たドラマか何かで、そんなことを言っていたような気がする。まさかこの俺が、そんな経験をするとは夢にも思わなかった。俺は溜息を吐いて、目を瞑る。髪は乾かしてないが、まあいいかと思い、そのまま寝ることにした。暫くして俺は意識を手放した。 「あ…お、おはよう」 リビングに行くと、翔太がこっちを向いて挨拶。俺は何となく気まずくなりながら、おう、と返す。 昨日は風呂に入る時にすれ違い、義務的な会話をしたくらいで、全く会話をしなかった。翔太は何度もこっちに話しかけようとしていたが、俺は知らないフリをした。つまり、避けていた。 「…あの、淳也」 「なんだ」 恐らく、手を払ってしまったことをまだ気にしているんだろう。そう思っていた俺は、次の言葉にハッとする。 「昨日、食堂に…いたよな」 日向のあの無表情が頭に浮かんだ。やはり、あれは…翔太、だったのか。ほぼ確信していたから驚きはなかったが、落胆はあった。違うやつだったら良かったのに、と思う。 「あれ、誰なんだ?」 「…お」 「お?」 「俺の…大切な、やつ、だ」 そう言うと、翔太の目が見開かれる。俺は痛む胸を抑えながら、なんとか笑みを作った。 → |