……。……はっ! そうだ、電話!
 僕は慌てて立ち上がる。ガタリと音が響いて、二人はこちらを向いた。

「すみません、少し抜けます」

 空音はげんなりとした。きっと今から僕が中村くんに電話するということを分かっているんだろう。会長は何も答えない。僕はもう一度すみませんと言って逸る心を抑えながら生徒会室を出た。
 メールに載せられた番号を押して携帯を耳に当てる。プルルルというお馴染みの音がなるのをドキドキしながら聞いていると、何コール目かでコール音が途切れた。

『もしもし』
「もっ、もしもし」
『ああ、俺、中村だけど』

 うん。やっぱり敬語はメールの時なんだね。うん…いや、いいけど。

「うん、分かってるよ。えーと、訊きたいことって?」
『…直接会って話してえんだけど、どうだ?』

 ちょ、直接会って!?
 彼からそんな言葉が聞けるとは思わず、パチパチと何度も瞬きをした。

『あ、別に無理ならいいぞ』
「う、うん…ごめんね、ちょっと今仕事を抜け出して来てるから」
『ああ…なるほど。あー…じゃあ、今は無理だな。時間が空いてからでいいからまた電話してくれ』
「うん、わかったよ」
『じゃ』

 ブチッと切られた電話。僕は通話時間の書かれた画面をじっと見つめる。……訊きたいことって、本当になんなんだろう? 気になる。だけど、仕事がまだ残っている。部屋に帰ってからかな、電話は。部屋に行くことも考えたけど、翔太くんのことも考えるとね。仕事が終わるのも遅くなるかもしれないし。うん、惜しいけど電話にしておこう。
 僕はどこかふわふわとした足取りで生徒会室に戻ると、自分の席に座って書類を手に取った。