料理がなくなる頃。突然日向が笑顔を消した。何度目かになるその顔に、俺は硬直した。日向の視線は俺の後ろにある。まさか、と思う。後ろにいるのは――。

「…おい、日向」

 日向は答えない。それどころか、更に顔に凄みが増した。無表情になった時は翔太が絡んでいた。それ以上に怖い顔をしているということは。
 俺は振り向こうとした。

「淳ちゃん」

 日向の声は驚く程穏やかだった。顔はそのままだったから、不気味に感じる。

「駄目だよ、振り向いちゃ」

 そこで漸く笑顔を見せる。

「…誰がいた?」

 誰がなんて訊かなくても分かる。翔太と…クソ会長だ。俺と食べない時は高確率でクソ会長と食堂に来ているから。
 俺は探るように日向の顔を見た。

「別に?」

 話すつもりはないらしい。俺はそうかとだけ答えて、最後の一口を食べた。












 保健室に行く日向と別れ、俺は教室に行く気にならず、屋上へ行こうとしていた。階段の近くに立っている人物を一瞥して、そのまま通り過ぎようとする。

「こらこら」

 空音は俺の前に立ち塞がる。どうして俺がここを通るのがわかったんだろうか、こいつ。

「……何だよ」
「何だよじゃねえって。お前、今日戸叶と食堂に行ったんだってな」
「もう知ってるのか」

 やっぱりその件で俺を待ち構えていたのか。空音は騒ぎになってたからと言って、溜息を吐く。

「どうせあいつが無理矢理連れてったんだろ」
「…そうだが。俺が止めれば良かった」

 もっと強く言えば、もしかしたら折れたかもしれない。空音は肩を竦める。

「ま、もう仕方ねえよ。ただ…お前の代わりに戸叶を狙う奴が出てきたらやばいな」

 俺は頷く。あれだけ目立つ容姿だ。顔を覚えられている可能性が高い。俺に敵わないからって戸叶を標的にしたら…。そう思うとぞっとする。あいつはただでさえ体が弱いのに。