「どうしたのー?」
「いや…なんでもねえ」

 日向は不思議そうな顔で首を傾げた。もう一度なんでもないからと言ってテーブルに定食を置く。

「ありがとー。ごめんね、重くなかった?」
「大丈夫だ」

 汁物があったから運ぶ時慎重に持って来ただけで、特に重くはなかった。
 ――それにしても。
 俺はこっそりと周りを窺った。見てる。めっちゃこっち見てる。ガン見してる。
 日向は殆ど保健室登校だから珍しいっていうのもあるし、美形だということも関係ある。ただし、一番の理由は……恐らく、俺と一緒にいることだ。
 矢張り止めた方が良かったのでは、と思っても時既に遅し。日向を見ると、旨そうに飯を食っていて、脱力した。こいつ何も考えてねえ。つーかこんだけの視線、気にならないのかよ。
 翔太と初めて食堂に来た時のことを思い出す。そういえば、あの時もこれくらい注目されてたな。生徒会のやつとかやってきて…。

「淳ちゃん、食べないの?」
「ああ、いや」

 食べる、と答えて箸を持つ。揚げたてのコロッケを一口。さくっと音がした。うん、旨い。つい口元が緩んでいたらしい。それを見た日向が嬉しそうに笑った。

「淳ちゃん、可愛い」

 ……。
 ……えっ?
 思考停止する。隣に座っていた奴は変な声を出していた。そりゃそうだ。俺だってそいつの立場だったら聞き間違いだと思い込む。俺みたいな奴は可愛いなんて言葉からかけ離れてるぞ。
 
「……おい、日向」
「なに?」
「そういうこと言うの、やめろよ」
「何で?」

 日向は首を傾げる。あ、こりゃ駄目だ。言っても無駄な気がする。

「…やっぱりいい」

 日向はずっと不思議そうな顔をしている。俺は諦めて飯を食うのに集中した。