来るのが早かったおかげか、列はそんなに長くない。あっという間に順番が来た。

「A定食二つ」

 あいよ、とおばちゃんが元気よく答える。俺は受け取りカウンターの方へ行き、見知った顔を見つけて声をかけた。

「芳名、小森」
「あ、中村様。こんにちは」
「こんにちはー!」

 日向の親衛隊隊長の芳名と副隊長の小森の挨拶に片手を上げて答える。芳名はともかく、小森に会うのは久しぶりなので何だか懐かしさを覚えた。

「食堂にいるということは、今日は転入生とお食事ですか?」 
「いや……それがな」

 俺はチラリと先程まで座っていた席を見る。目立たない席を選んだつもりだが、初めて食堂に現れた日向が珍しいのだろう、注目を浴びていた。俺の視線の先を見て芳名が納得したように頷く。一方、小森は。

「え? ボッチですか」

 ……。
 かわいそうな顔で俺を見上げる小森。俺は無言で頬を抓った。

「いひゃいいひゃい! いひゃぃれふ!」

 軽く抓っているのに、物凄く痛そうにされたのでそっと手を放した。むっとした小森がすかさず文句を言おうと口を開いたが、芳名がそれを遮った。

「中村様は戸叶様と食堂で食べるみたいですよ」
「えぇ! 戸叶様いらっしゃるんだ!」

 きらきらと顔を輝かせる小森。それを微笑ましく思いながら、一緒に食べるかと誘ってみた。
 しかし。

「いえ、お二人のお邪魔になってしまいますので」
「ますので!」

 にこにこと笑う親衛隊たち。邪魔になるわけがないし、今回は一緒にいてほしかったのだが、逆に親衛隊と一緒だと目立つかと思い、諦めた。

「そういえば、あの件ですが」

 突然、芳名の目が細まる。ぎくりと顔が強ばった。あの件――恐らく、掲示板のあれのことだ。

「後で詳しくお話を聞かせてもらいますね」

 にこり。
 芳名と小森は笑ってトレイを持つと、去って行った。綺麗な笑みだったが、目が笑っていなかった。
 俺は料理が来るまでの間、憂鬱な思いでカウンターを眺めていた。