「…なんにせよ、まずいことになったな」
「え?」
「片桐は相沢を脅すつもりだぞ。お前と同じようにな」
「……知ってたのかよ」

 前は親しいのか、と訊いてきたくせに。風紀委員長はふんと鼻を鳴らした後、俺の言葉に何も返さずに続きを口にした。

「しかし相手は生徒会長だ。脅すのは難しいだろう」
「…だったらいいんじゃねえの」

 確かに親衛隊が黙ってはいない。脅すなんてことしたら制裁どころじゃないかもしれないな。
 内心ホッとしていると、風紀委員長は呆れた表情で俺を見た。

「……な、なんだよ」
「お前は何でここにいる」
「は?」

 いきなり話が飛び、素っ頓狂な声が出た。…何でここにいるって、それ今関係あるか?
 顔を顰めていると、鋭い視線を感じたので目を逸らしながら答える。

「…あいつに呼び出されたからだけど」
「そうだな。…何で呼び出された?」
「会長が狐面だろって。確認したかったんだろ」
「…やれやれ」

 風紀委員長は深い溜息を吐いた。先程より長かった。
 な、なんなんだよ、一体。

「片桐は確認だけじゃなくて――、お前を使おうと思っていたはずだぜ」
「使おうって……まさか」
「自分の駒で、しかも生徒会役員。これを使わない手はないだろうよ」

 さっと顔が青くなる。じゃあ、風紀委員長が現れなかったら今頃…。風紀委員長は舌打ちをする。

「…恐らく正体をバラすような真似はしねーと思うが…一応気をつけとくか」

 あれ、と思う。

「…アンタにとってはバラされた方が嬉しいんじゃねえの。狐面が本当にあいつか分かるじゃん」
「…いいんだよ、それは」

 ……? どういうことだ?
 訳が分からず首を傾げると、意味ありげに笑う風紀委員長。更に分からなくなった。

「お前は引き続き相沢の様子を見ててくれ。片桐のことはこっちで見張っといてやる」

 そう言うと、俺の返事を待たずに踵を返す。俺は黙ってその背中を見送った。