「一回来てみたかったんだー、食堂」
「来たことなかったのか」
「うん。だって淳ちゃんが言ったんでしょ、人の多いところは行くなって」

 日向は頬を膨らませる。確かに言ったが、素直に守っているとは思わなかった。

「なに食べよっかなー」

 メニューを見て目を輝かせる日向。朝の気まずい空気が嘘のようだ。……俺は、どうしたらいいんだろうか。

『俺には…淳ちゃんしかいないのに』

 その言葉が俺を縛り付けた。クソ会長には翔太がいる。翔太にはクソ会長がいる。…じゃあ、俺には?
 …クソ会長と翔太がくっつけば、俺は邪魔者になる。というか、俺があのクソ会長と付き合うことはないだろう。なら、あいつのことなんか忘れて日向と付き合った方がいいんじゃないか。そう考えて頭を抱える。最低だろ、そんなの。自分が振られると分かってるからって、自分のことを好いてる奴と付き合うなんて。
 溜息を吐くと、日向は顔を曇らせた。やばい、と思って慌てて口を開くが、日向に遮られた。

「淳ちゃん…迷惑だった?」

 それは。食堂で一緒に食べていることか。それとも。
 どちらにしよ、迷惑だということはない。俺は首を振った。日向は一瞬だけ悲しそうな顔をして、にこりと笑った。無理して笑わせている自分に腹が立った。早く、答えを出さなければならない。俺のためにも、日向のためにも。

「俺、これにしよっ。淳ちゃんは?」
「…じゃあ、俺も、それ。…じゃあ待っとけよ、注文してくる」
「うん、ありがとー」

 空気が柔らかくなった。先程の無理した笑顔は消えている。それにホッとして席を立った。