結局、淳也が教室に来ないまま昼が訪れた。淳也が教室にいないことなんてザラにあることなのに、なんだかとても寂しく感じた。
 立ち上がると、近くで同じように立つ奴がいた。恐らく風紀委員だろう。俺が制裁に遭わないために、守ってくれるのだ。俺なんかのために申し訳ないと思う。メールを作成すると、いつものところにいます、と書いて送る。
 教室を出ると、いつも待ち合わせをする教室に向かった。淳也と一緒のときは待ち合わせなんかしないけど、俺一人のときはここ集合な、と言われたことを思い出す。俺だけ特別なんだっって親衛隊に罪悪感を抱いた覚えがあった。
 空き教室で待つこと数分。ガラリとドアが開いた。

「おう、待たせたか」
「あっ、いえ」

 ぶんぶんと首を振る。ふ、と笑った。それだけでドキリとする自分が何だか乙女みたいで恥ずかしい。

「あいつ――あれから来たか?」

 淳也のことだ。すぐに分かった。俺はまた首を振った。

「来てません」
「またサボりかよ」

 そう言う顔が淳也のことを心配しているように見えて、ぐっと唇を噛む。こんな気持ち、嫌だ。持ちたくない、のに。俯くと、会長が顔を覗き込んできた。一瞬だけびくりとする。

「? どうした、翔太」
「……いえ、なんでもないです。行きましょうか」
「おう」

 訝しそうに俺を見たけど、そのまま追求してこなかった。それにホッとして、会長とともに教室を出る。












 食堂は、いつもと様子が違っていた。殆ど毎日来ている俺には、その変化が一瞬で分かる。皆、どこかを見つめている。同じ場所を、だ。

「……?」

 俺も、会長もそっちを見た。そして首を傾げる。

「淳也…?」

 そしてそんな淳也をにこにこと見つめている――知らない奴。遠くからでも整っていることが分かる。顔が整っているということは、ここでは有名人に等しい。俺は初めて見たけど、あいつも有名な奴なんだろう。淳也と一緒にいるってことは、友達か? でも、だったら、こんなに注目しているのか分からない。
 ――あ。
 目が、合った。そいつは僅かに目を見開くと、目を細めた。それは、笑ってるとかじゃなくて、明らかに敵意の混じったそれだった。睨まれている理由が分からず、固まる。そいつの視線は俺の横へ移った。すると、俺の倍くらい顔つきが悪くなる。友達の変化を不審に思ったのか、淳也が振り返……ろうとして、それを止められていた。もうそいつはこっちを見ることはなく、楽しそうに笑っている。淳也に、笑いかけている。
 訳が分からず、俺は動けないままでいる。会長は何を考えているのか分からない顔で、そっちを見ていた。