リビングに行くと、魔王様が俺たちを見て不機嫌そうな顔になった。俺は慌てて待たせたことを謝るが、魔王様は違うと首を振った。

「その手のことだ」

 手…?
 俺は右手を見る。しっかりと繋がれた手にハッと目を見開いた。叩き落とす勢いで外す。

「いてーなオイ…」

 その呟きとともにびしばしと視線を感じたが、俺は無視して魔王様に近寄る。

「お前はそこに座れ」
「はい!」

 魔王様の隣に腰掛けると、満足そうに笑う。勇者も近づいてきて――何故か俺の隣に座った。魔王様と反対側ということだ。

「いやいやいや」

 おかしいだろこれ。何で横一列だよ。何で壁みながら食べなくちゃなんないんだよ。いや勇者を見たいってわけじゃないけど、壁よりマシだ。
 魔王様がチッと舌打ちをする。

「テメェはそっち行けよ」
「俺の勝手だろ」

 俺を挟んで言い合いを始める。俺は首を竦めた。うう、何故いつも俺を挟むんだ…。
 静かにして治まるのを待っていると、頭上から溜息が聞こえた。

「子どもの喧嘩だね」

 ……っ!
 顔を上げると、女と見紛うような美しい顔――ミズナ様がげんなりとした顔をしていた。ミズナ様は俺と目を合わせると、露骨に嫌そうな顔をした。ショックだ。

「ちょっと、その貧相な顔でこっち見ないでよ」
「す、すみません…」

 ミズナ様相変わらず容赦ない。

「――って、ミズナ様、どうしてここに…!」
「あぁ? うん、ああ、それね。俺もここに住むから」
「は?」

 素っ頓狂な声。
 これは俺の声ではない。勇者と、魔王様の声だ。

「待てミズナ、今何つった」
「え? 俺もここに住むからって言ったけど」
「は!?」
「あのさぁ、料理だけ作らせてその見返りがないのおかしいでしょ」
「ぐ…」

 魔王様が言い返せないようで、黙ってしまった。勇者も何も言わない。俺は――ミズナ様って料理できるんだとどうでもいいことを考えていた。