でも。俺はチラリと部屋の中を見た。

「広い…」

 家の自分の部屋の何倍だよ、これ…。左右を見て誰もいないことを確認する。俺は走って、ベッドに飛び乗った。ばふん、と音を立てて体が沈む。そしてふんわり押し戻された。マシュマロとは言い過ぎだが、それくらい柔らかい気がする。これからここで寝るのかあ、と笑みが零れた。
 そこで携帯の存在を思い出し、ポケットに手を突っ込む。パカッと開いてみると、新着メール一件。

「あ…」

 ばくばくと心臓が鳴り出す。何度か深呼吸をして開いてみると、ただのメールマガジン。俺は脱力して再び身をベッドに沈めた。

「だよなぁ…」

 分かっていたことだろ。はあ…と溜息を吐いて携帯を閉じた。



















 ドスッ。

「ぐぇっ」

 蛙が潰れたような声が出た。それと同時に感じる圧迫感。

「おい、三十七号。飯だぞ」
「え…あ、ああ」

 ぼんやりする頭。重い体。
 ――ああ、いつの間にか寝てたのか。
 むくりと起き上がる。勇者が呆れた顔で部屋を物色していた。

「つーか何でお前の部屋こんなに豪華なんだよ…」

 やっぱりそれ思うよな。ぼんやり思いながら、再び目を閉じ――。

「飯だっつってんだろ」

 頭にドスっとチョップを入れられて、漸く覚醒する。

「お前の大好きなクソ魔王様がお待ちだぜ」
「はっ…! 魔王様…!」

 ま、待たせているだと…! 俺みたいな下っ端が魔王様を!
 俺は急いでベッドから降りると、勇者の手を引っ張って部屋を出た。