とりあえずスーパーに来てみたが…何か食いもん買って来いって…何を買って行ったらいいんだよ。ていうか何で俺は素直に買いに来てんだ。こうなったら嫌いなモン買って行ってやる。

「……って、あいつの嫌いなモン知らねえ…」

 どんよりとした空気を背負いながら頭を抱えて蹲む。俺って何でこんなに馬鹿なんだ。もっと賢くならないと魔王様に見放されてしまう。それは絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。

「ちょっとー、邪魔なんスけどー」

 突然耳に入ってきた声。
 うわ、頭の悪そうな喋り方。俺、これよりはマシだよ。そういえばこんな喋り方する奴、いたな。何だか声も似てる気がする。

「おい、聞いてんの?」

 その声はすぐ上の方から聞こえた。そして漸く、俺に向かって話しかけているのだと気づく。

「何――っ!?」

 顔を上げて、すぐに俯いた。ややややばい。喋り方とか声とか似てるなと思ってたら! 本人! だった!
 名を瀬戸徹平。俺の高校のクラスメイトだ…。とは言っても俺は目立たないようにひっそり過ごしてて、こいつは必ず人の輪の中にいるような奴だからまったく関わりはない。だからバレないと思う。バレたら……やばい。魔王様の元で下っ端として働いているということをバレてはいけないという規則があるんだ…!
 今は制服を着てないからバレたとしてもクラスメイトにいたなという印象しか与えないかもしれないが、その油断が命取りになるかもしれない。

「ハァ? 無視ですかー?」

 だからその喋り方うぜえ。俺は俯いたまま、すみませんと早口で告げて立ち上がると、素早く横にずれる。瀬戸がジロジロとこっちを見ているのを感じ、心臓がバクバクと鳴り出す。

「チッ。うぜー」

 そのセリフそのままそっくりお前に返したい。
 ムカッとしたが、俺はぐっと堪えて瀬戸が横を通り過ぎるのを待った。