勇者と魔王様と繋ぐことで和やかな空気が流れること数分。俺はふと思った。
 ……何で手繋いだままなんだ? これ、楽しいか…?
 可愛い女の子ならまだしも、何一つ可愛さの見当たらない男の俺を挟んで手を繋いで……な、何やってるんだろう俺たち。そろそろ手汗掻きそう。勇者ならいいけど、毛様の麗しい肌に俺の汚い汗が付くのは駄目だ! 絶対阻止!

「あ、あの…魔王様」
「あん? どうした?」
「手…」

 恐る恐る言うと、魔王様はむっと顔を顰めた。ウッウワァー! めっちゃ不機嫌そう!

「お前と手繋ぐの嫌なんだってよ、放せば?」

 何やら勝ち誇ったような顔で言う勇者……って、っは! ま、まさか、魔王様もそんな勘違いを!?

「ちっ、違いますよ魔王様! 魔王様と一生手を繋いでおきたいくらいっていうか、もう手を洗いたくないっていうか…とにかく違います!」

 しーん。
 魔王様は目を丸くして俺を見ている。勇者は……あ、あれ? なんか引いてる。

「そうか…じゃあ、一生繋いでおくか?」

 にやりと笑った魔王様が格好良すぎて頷きそうになったが、いくらなんでも一生は困るっていうか…。いや、俺が言い出したことなんだけど、あれは勢いで言ったようなもんだし…。

「本気にしてんなよ、マオウサマ」

 勇者が馬鹿にしたように笑う。思わず殴りたくなるような面だ。同じことを思ったのか魔王様の眉がぴくりと動く。

「……ま、突っ立ってるわけにもいかねえし、おい、三十七号」
「えっ?」
「何か食いもん買ってこい」
「は!?」

 何で俺が!

「俺はねみーんだよ」

 そう言うと欠伸をして俺の手をするりと外した。ぬくもりが離れていき、何だか少し寂しい気持ちになった。
 勇者はのそのそと部屋の外へ消えていった。

「じゃあ俺も寝るかな…」
「ええっ!」

 ま、魔王様まで!
 いや、魔王様にパシられるのはいいけど! だけど!
 去っていく魔王様の背中を涙目で見送った。