「おわっ!? どっ、どうした!?」

 大きな欠伸をしながら自室から出てきた田口は、俺を見てぎょっとした。咄嗟になんでもないと答えたが、田口は納得のいかなさそうな顔で手を差し出す。その手の意味はわかったが、敢えてその手の力を借りずに立ち上がる。

「可愛くねえ…」

 ぼそっと田口が呟く。なんだかがっかりしている。

「男に可愛さを求めんなよ」
「草食男子とか流行ったじゃねえか」
「それは可愛いんじゃない。ただのヘタレだ」

 溜息を吐きながら言うと、田口は首を傾げた。分かっていないだろ、お前…。
 一口も飲まれることのなかったお茶の入ったコップを手に取り、シンクの方へと足を進める。

「あれ? それ飲まねえの」
「ああ」
「なんで?」
「…いいだろ別に。ただ…ちょっと汚れてたから。それだけだ」

 ふうん。田口は不思議そうだったが、もうそれ以上訊いては来なかった。
 コップを置いて田口の真向かいに座る。一度深呼吸をして、口を開いた。

「おい、田口」
「あ?」
「お前のその怪我…本当に卑怯な奴にやられたのか?」
「は? そうだけど。それがどうかしたのかよ?」
「いや…」

 田口が、峯岸の言っていた「盾」だったら、その怪我はその時に、と思ったのだが…田口の様子を見れば峯岸によるものじゃないかもしれない。
 じゃあ世津…? いや、あいつを盾にしたら面倒だということを峯岸は知っている筈だ。というか、そもそも鈍器で殴られてたらもっと酷い怪我になるだろうな。俺は殴ったことも殴られたこともないから良く分からないが、そういうものだろう。