気がつけば俺は、少しずつ峯岸から距離をとっていた。

「なんだ、意外にビビリだな、お前」

 くくっと楽しげに笑うと、口角を上げた。

「まあ、そんなビビるな。安心しろ、手は出さねえよ」
「…っ」
「まだお前に楽しませてもらってねえからな」

 それは――これから、俺をどうにかするってことは決定してるのか、それとも……俺次第、ってこと…か?
 今の状況は蛇に睨まれた蛙、という表現がぴったりだ。たらりと汗が頬を伝う。

「今のうちに仲間を作っておくんだな。絶対に裏切らない仲間を」

 つまり峯岸や世津のような奴以外だな。しかし、俺の味方になってくれる奴なんて、あのモノ好きしか思い浮かばない。田口が庇ってくれても多勢に無勢。しかも田口はそこまで強くないだろう。俺よりは確実に強いとしても。
 眉間に力を入れて考え込んでいると、峯岸が溜息を吐いた。そして立ち上がると、大袈裟に肩を竦めた。

「その様子じゃ、潰れるのも時間の問題か? まあいい。俺は帰る」
「なっ…お茶、飲んでないじゃ――」
「あぁ? いるかよ、んなクソ不味そうな茶」

 じゃあ持って来させるんじゃねえよ! 峯岸を強く睨むが、どうでも良さそうにこちらを一瞥しただけだった。
 
「ああ、そうだ」

 背を向けたまま峯岸が何かを思い出したように話し出す。

「ここには俺の言葉を聞かない気性の荒い奴もわんさかといるからな、気をつけろよ?」

 峯岸は肩ごしに振り返ると、にいっと笑った。












 峯岸が去って、緊張の糸が切れたらしい。その場にへたりと座り込んだ。カタカタと手が震えていて、ああ、怖かったんだな、と今更ながら実感した。

「くそ……くそ…っ!」

 自分が情けなくて、髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜる。
 結局俺は、田口が起きてくるまでずっとその場に座り込んでいた。