(side:誠春)

 教科書を眺めていると、テーブルの上でスマホが震えた。電話かと思ったが、振動は直ぐに止まり、メールだということが分かった。父親だろうか。それなら放置しておいてもいいが…井手原の可能性もある。俺は教科書を置くと、スマホを手にとった。
 アドレスは知らないものだったが、件名を見て顔を顰める。……井手原、あいつ、戸田に教えやがったな。一応仕事仲間だったのに、連絡先も知らなかったな、そういえば。知りたいとも思ってなかったし、今も思ってないが。
 戸田のメールは容易に想像がつく。絵文字や顔文字だらけのだらしない文章だろう。そう思っていた俺は、メールを開いて目を見開く。

「まともだ…」

 これは本当にあいつが書いたのだろうか? 井手原に頼んで、とかしてないだろうな。

「今までごめんなさい…か」

 謝りすぎだろ、と結構な長さの文章を読んでいき、返信のメールを作成する。ああ、という一言だけだけど。送信中の文字を見ながら、俺は溜息を吐いた。
 俺は仲良くするわけじゃない。手伝うだけだ。戸田がどうなったっていい。俺はこれから宜しくという言葉を苦々しい気持ちで見つめ、舌打ちをした。





「よう」
「ああ、はよ……え?」

 翌朝、リビングに行くと峯岸がいた。寝ぼけ眼だったのが一気に覚醒した。何でこいつここにいんの。

「ぶっ、間抜け面」

 ぽかんとした顔をしていたんだろう。俺の顔を見て噴き出す峯岸。俺は慌てて顔を引き締めた。

「っ、ここはお前の部屋じゃないだろ」
「そうだな」

 何を当たり前なことを、というような顔でソファに鎮座している。俺は顔を引き攣らせた。何故お前は当たり前のようにそこにいるんだ。

「おい、俺は客人だ。茶を出せ」

 招いた覚えはないんだが。田口はどうした田口は。どうせあいつが入れたんだろ。

「…田口は?」
「はあ? 田口? 知らねえよ」

 ……え? 本当に何でこいつここにいんの?