僕は別に図書委員が良かったわけじゃないけど、僕が転入してきた時には空きが図書委員会しかなかったらしく、強制的にそこに入らされた。当番が多くて面倒だけど、本を読むのは嫌いじゃないし、今ではそれなりに楽しんでいる。 本棚から読みかけだった本を取ろうしたが、なくなっていた。貸し出しされたのだろうか。でも、隠していたし、特別惹かれるような本ではない。借りる人はいないだろうと思っていた。現に、貸し出しカードは真っ新だったし。あの本には栞を挟んでいたのを思い出し、盗られていたら嫌だなあと肩を落とす。…仕方ない、何か他の小説を読もう。僕はパッと目に入った本を取り出し、カウンターに戻る。先程までいなかった奴が、席に座っている。 「あれ? 池鶴じゃん。今日当番だった?」 きょとんと首を傾げる彼は、隣のクラスの文月。僕は首を振って、横の席に腰掛けた。 「ううん。今日は田中さんだったけど、用事があるみたいで、変わった」 「ふうん」 文月はそれだけ言うと、机に欠伸を漏らして突っ伏した。僕は苦笑して本を開く。文月はとても綺麗な顔をしていて、女子から人気がある。でも本人はそれを鬱陶しく思っているらしい。教室は煩くて眠れないから図書委員に立候補した、と言っていた。 初めて本のタイトルを見て、溜息を吐く。これ、恋愛小説だ。僕は恋愛ものなんて全く興味がないのに。でも持ってきたんだし、仕方ないから読むか。元の場所に戻しにいくのも面倒だし。 「すみません、これ借りたいんですけど」 「あ、はい」 顔を上げて、本を受け取る。貸し出しカードに書かれた名前を紙に記して、カードをボックスの中に入れた。 「返却は――」 言いかけて、女生徒が僕の隣をじっと見ていることに気づく。ああ、この子、文月に気のある子か。そういえば、今日は女生徒が多い。文月効果だな。僕はこほんと咳払いして、少し声を大きくする。 「返却は、二週間後となります」 「あ、どうも…」 僕に軽く会釈し、またチラリと文月を見遣る。きっと文月に頼みたかったんだろうなあ。僕で悪かったね、と思いながら苦笑した。 13/06/30 → |