「職員室に行くのか!? 俺も行く!」

 なんでだよ。
 転入生の煩い声に頭が痛くなった頃、思わぬ人物が助けてくれた。

「千里、どうせ教室で会うんだし、俺たちは先に行ってようよ。千里、数学の宿題やってないって言ってたでしょ。今日当たると思うよ」
「えー…。でも」

 酒井が苦笑しながら転入生の肩に手を置く。物凄く渋っていたが、宿題をやってないということが決め手になったのか、渋々頷く。漸く俺の腕は解放された。これは痣ができそうだな、と痛む腕を摩る。

「仕方ねーな! じゃあすぐに来いよ、蓮!」

 ニコッと口を大きく開けて笑うと、何故か走り出す転入生。

「……じゃ、じゃあ」

 酒井は一度俺を振り返って気まずそうにそう言うと、直ぐに転入生を追って行った。…そして不良は。

「まだ懲りてねーようだな、テメェ」
「……っひ!」

 ガッと胸倉を掴まれて情けない悲鳴が上がる。指輪の増えた手を見て、さあっと青ざめた。

「何で出てきた――また殴られてぇのかよ?」

 鼻で笑われ、俺は何度も首を横に振る。殴られたいわけがない。もう、二度と殴られたくない。口角が上がり、拳が振り上がった。俺は歯を食いしばってぎゅっと目を瞑る。

「…あ?」

 衝撃は来ず、訝しげな声が聞こえた。俺はそっと目を開ける。的場が不良の手首を掴んでいた。