「…行きましょうか、雨宮さん」
「えっ…」

 一匹狼の不良の言葉を無視してこっちを向くと、すたすたと歩き始めた。俺は呆然とその背中を見つめるが、この場に取り残されるのは御免だった。付いていこうと足を前に出す。――が、その手をぎゅっと掴む奴がいた。

「待てよ!」

 もう放っておいてくれと叫びそうになった。

「は、放し…」

 もごもごと口を動かしながら転入生と的場を見る。おい的場、ふざけんな! お前助けろよ、と心の中で叫んだ。

「おい、テメェ! ……ッチ」

 びくっと肩が跳ねる。今のは誰に向けて放たれたものか、と視線を彷徨わせるように考える。不良の視線は的場に向かっていて、ほっと息を吐く。――と、その時、転入生の手に力が加わった。ギリギリと音が出そうなほど握り締められて、痛みに顔を歪める。

「あいつとどういう関係なんだ!?」
「……え、」

 もっさりとした髪の下から睨みつけられたような気がして、体が硬直する。目は見えないけど、強い視線を感じた。どういう関係って、どうしてそんなことを気にするんだ。

「なあ!」

 急かされるように声を上げられ、周りからの視線も少し強くなる。

「え、え、と。ど、同室者…で」
「同室者!? 蓮は一人部屋だった筈だろ!?」

 どういうことだよと責める声。そんなこと、俺に言われても。

「何で、あいつが…」

 ぼそりと転入生が何かを呟く。眉を顰めた時、反対の手を掴まれた。

「おせーですよ」
「ま、とば…」

 追ってこない俺に気づいて戻ってきてくれたのか…? ひとりじゃないということに強張っていた体から力を抜くと、転入生が再び俺の腕を強い力で握りしめてきた。そろそろ本気で痛くなってきた。

「職員室に行かないといけないんですよ。早くしてくれです」
「ご、ごめん…」

 だったらこの転入生をどうにかしてくれ、と溜息を吐きたくなった。