俺は今、外に出たことを猛烈に後悔している。理由は幾つかある。一つ目、俺はあらゆる生徒から疎まれている。二つ目、的場は親衛隊が出来る容姿をしている。三つ目、的場は転入生である。そして、四つ目――。

「漸く俺に会いに来たな! 蓮!」

 ……転入生に絡まれる。プラス、取り巻きに睨まれる。以上が後悔した理由だ。
 っていうか、会いに行ってないから。ばったり会っただけだから。だからそんなに睨まないでくれよ、と俯く。視線が全て突き刺さるように俺に注がれていて、酷く居た堪れなかった。誰が吐いたのか、溜息が聞こえてびくりと体が震える。

「顔、上げてください」

 ハッとして的場を見る。的場はどこか真剣な目で俺を見て、転入生に視線を移した。転入生は今初めて的場の存在に気づいたようで、一瞬ぽかんと口を開けると、にっこりと笑った。口しか見えないから、満面の笑みかは分からないけど、少し引き攣っているように見えた。

「お前誰だ!? 名前教えろよ!」

 いつも思うけどこいつ何でこんなに上から目線なんだよ…。
 不快に思ったらしい周囲から転入生に対して暴言を吐く。が、取り巻きに睨まれて直ぐに口を閉じた。代わりに俺の悪口になり、耳を塞ぎたくなった。 …でも、俯くことはしなかった。なんとなく、的場の言葉に従ってみようと思ったから。咳が出そうになるのもぐっと堪えて、俺は前を見据えた。前にいた取り巻き――確かサッカーのエースの酒井――が驚いたように俺を見る。

「俺は的場です」
「的場? 下の名前は!?」

 キンキン響く声に顔を顰めそうになる。でも、転入生の声は親衛隊みたく高くないから、まだマシだ。すげー煩いけど。

「的場です。下の名前はありません」

 きっぱりと言い放った的場は、いっそ清々しかった。
 ……いやいやいや、お前圭一って名前があるだろ。いくらなんでも名前がない、じゃバレバレだって。

「えっ! そうなのか!?」

 信じるのかよ転入生。

「テメェ…、もっとマシな嘘吐けよ」

 一匹狼として有名だった奴――名前は知らない――が的場を恐ろしい形相で睨む。今にも殴りかかりそうな雰囲気に、俺は青褪める。転入生の取り巻きで唯一暴力を振るってきたこいつは、得に苦手だった。殴られた時のことを思い出し、体がガタガタと震える。吐き気を催して、俺は片手で口を覆った。