「いっ、嫌だ! 絶対に嫌だ!」

 俺の腕を掴んでいる手を振り払おうとしたが、最近ろくに動いていない俺が振り払えるハズがなかった。
 しかし、負けるわけにはいかない。俺は声を張り上げた。

「絶対に学校なんて行きたくない!」

 そう、的場は俺を連れ出そうとしていた。冗談じゃない。誰が出てやるものか。なんて思うけど、…えっと、ちょっと、やばいかも。ずるずると引き摺られて、いつのまにか玄関にたどり着いていた。ひいいと情けない悲鳴を上げて逃げ出そうとしたけど、結果は失敗に終わった。いや、っていうか、俺まだ着替えてないからな!? 今ジャージだからな!?
 今ここで出されるならジャージより制服の方が断然良い。まだ目立たないから。もしかしたら奴ら、もう俺のこと忘れてるかもしれないから思い出させるようなことしたくないんだよ。…まあ、出ないで済むのが一番だけど。

「ま、まと、ば。い、行く! …から、着替えさせてくれ」
「…本当ですか?」
「あ、ああ…」

 無表情だけど、何だか怒っているように見えて、俺は身を小さくした。的場は数秒の沈黙の後、そっと手を放した。俺はほっと息を吐いて、部屋に戻ろうと踵を返した。…的場には悪いけど、部屋に篭らせてもらう。頑なとして部屋からでなければ的場も諦めてくれるだろう。――ちくりと少しだけ痛んだ。

「……って、なんで付いてくるんだよ!」
「何だか嫌な予感がするので」

 ……。俺は、諦めて制服に着替えたのだった。



 久しぶりの「外」は、相変わらず無駄に豪華だった。壊したら零が沢山付いた金額を弁償しなければいけないものが沢山置いてある。本物かどうかは知らない。然して興味がないし。まあ、普通はレプリカだろうけど、ここは普通じゃないからな。
 重い足を前に進めていると、俺の数歩前にいる的場が立ち止まって振り返った。

「もう少し速く歩けねーんですか」
「…悪かったな、遅くて」

 むっと睨むが、そんな俺を無視して再び歩き始める的場。…的場は、何故俺を連れ出したんだろうか。本人の意思とは考えにくい。あの転入生なら兎も角、的場は他人に全く興味がなさそうだから。だとしたら担任に頼まれたか? それも考えにくい、けどなあ…。
 俺はその場で首を傾げていたが、また的場が立ち止まってこっちを見ているのに気づき、慌てて足を動かした。